逃げても追いかけてくる

あなたも感じたことありませんか？

何かから逃げたくなる時、誰にでもあります。

やらなければならないことから。受け入れがたい現実から。自分の弱さから。人間関係から。人生そのものから。

多くの人は、その逃げたい気持ちを抑え、無理に立ち向かおうとします。でも、時には、逃げたくなることもあるのです。そして、実際に逃げてしまう。別の場所に行く。別の人間関係を始める。別の人生を模索する。

でも、不思議なことに、どこに行っても、その問題は付きまとう。別の場所でも、同じことが起こる。別の関係でも、同じようなことが繰り返される。なぜなのでしょうか。

それは、逃げているのではなく、実は、「本当に向き合わなければならないもの」が、私たちを追いかけてきているのかもしれません。

もし、逃げようとしても、その何かがずっと追いかけてくるとしたら。そのことの意味は、何なのでしょうか。

古代の知恵の書に、こんな物語があります。

紀元前の預言者ヨナは、神から「ニネベという大きな都市に行き、その人々に警告を与えよ」という使命を与えられました。でも、ヨナはその使命から逃げたいと思いました。なぜなら、ニネベはユダヤ人の敵の国。そこに行くのは危険だし、不正義だと感じたのです。

そこでヨナは、全く反対方向の船に乗り込みました。ニネベから逃げるため、遠く離れた土地へ向かおうとしたのです。

ところが、その船の上で、大嵐が起こりました。他の乗客たちは、この嵐は誰かが神に逆らったために起こったと考え、くじを引きました。そのくじがヨナに当たったのです。

ヨナは真実を打ち明けました。自分が神から逃げているから、この嵐が起こっているのだと。そして、ヨナ自身、船から海に身を投げました。

するとどうでしょう。大きな魚がヨナを飲み込み、三日三晩、その腹の中にいました。その暗い、不快な場所の中で、ヨナは初めて、自分が逃げようとしていたことの意味に気づき、祈ったのです。

その祈りの後、その大きな魚は、ヨナを陸地に吐き出しました。そしてヨナは、結局、ニネベへ向かうことになったのです。

この物語は、単なる冒険譚ではなく、人間の心の深い部分を映し出しています。

では、このヨナの物語は、今の私たちにどう活きるのでしょうか。

まず大切なのは「逃げたくなる気持ちを認める」ことです。 自分がなぜ逃げたいのか。何から逃げようとしているのか。それを正直に認識することが、第一歩なのです。

多くの人は、逃げたい気持ちを否定します。「こんなことを考えるべきではない」「もっと強くあるべき」と自分を責めてしまうのです。でも、その否定自体が、さらに問題を複雑にしてしまうのです。

逃げたい気持ちは、人間らしい、自然な感情です。その感情を受け入れることから、本当の解決は始まるのです。

次に大切なのは「なぜ逃げたいのか、その理由を探る」ことです。 ヨナは、ニネベは敵国だから危険だと思いました。つまり、「不正義だ」と感じたから逃げたのです。

私たちが何かから逃げようとする時、その背景には、必ず理由があります。恐れかもしれません。怒りかもしれません。不公正への抗議かもしれません。それを理解することで、初めて、その問題と向き合う道が見えてくるのです。

そして最も大切なのは「逃げ続けることはできない」という真実を知ることです。 ヨナは船に乗って逃げようとしても、嵐に遭いました。魚の腹の中に入り、絶望を味わいました。

人生も似ています。何かから逃げ続けることはできません。いつかは、その問題と向き合わざるを得ない時が来るのです。だからこそ、早い段階で、その問題と向き合う方が、ずっと楽なのではないでしょうか。

最後に、ヨナはニネベに行きました。そして、その街の人々は、ヨナの警告を聞いて、心を入れ替えました。つまり、ヨナが逃げようとしていたその使命は、実は、世界を変える力を持っていたのです。

逃げたいと思うことの中に、時には、自分の人生を本当に変える可能性が隠れているのかもしれません。

私も、人生で何度も逃げたいと思いました。

若い時は、つらい人間関係から逃げたい。つらい仕事から逃げたい。そう思うことが何度もありました。でも、逃げ続けることはできませんでした。

63歳で失業した時、初めて、自分は「逃げられない」ということを知りました。その絶望的な状況の中で、初めて、自分が本当は何をしたいのか、どう生きたいのかが見えてきたのです。

その時、もしその状況に直面していなかったら、私は今のような人生を歩んでいなかったでしょう。つらい状況が、実は、自分を成長させ、本当の使命へと導いていたのです。

人生とは、逃げられないものの連続かもしれません。でも、その逃げられないもの、つまり、追いかけてくるもの、それこそが、実は、私たちを本当の自分へと導いているのです。

もし、今、あなたが何かから逃げたいと感じているのなら、その気持ちは悪いものではありません。

でも、いつかは、その問題と向き合う時が来ます。そして、その時が来たら、恐れずに、真正面からそれと向き合う勇気を持ってください。

その向き合う先に、あなたの本当の人生が、待っているのです。

今、あなたが逃げたいと思っていることはありますか。もし、あるとしたら、なぜ逃げたいのか、その理由を静かに問い直してみませんか。